スマホは圏外、狼森にはインターネットが来ない
「そちらの地域は対応エリア対象外です」
盲点だった。
ご時世にまさかこんな場所がこの存在するとは。
私はしばらくの間 固まっていた。
私の仕事はパソコンを酷使する。
使用しないという選択肢はもちろんない。
仕事で行う月に数回のテレビ電話。
それにはインターネットという近代文明が作り出した通信方法が必要ということは誰でもわかることだろう。
光回線は来てない。
ポケットWi-Fi(モバイルルーター)と呼ばれるものは壊滅的に繋がらない。
CATV(ケーブルテレビ)、ADSLさえ来ていない。
人の住んでいないこんな山奥はどれもお断りといった様子で
どの会社も今後引く予定すらないという。
つまり、移住先ではインターネットが使えない。
スマホを使えば良いと思うかも知れないが、
パソコンを使用する頻度が高い私にはあっという間に速度制限がかかる。
スマホは万能そうに見えて執筆には不向きな点も多い。
そもそも携帯基地局から遠く離れたこの山奥ではスマホさえまともに使えない。
庭の端まで行って良いところ電波が二本立つかどうか。
少し森の中に行けば圏外だ。
電話が掛かったとしても相手の声はほとんど聞こえず、まともに話ができない状態だ。
しばらくの間、私はありとあらゆるインターネット会社に電話をした。
なにか方法はないのか。
ただその一心だった。
最終的に一社のみポケットWi-Fiが繋がることを発見した。
とは言っても、ベーシックモードは圏外。
追加料金の必要なブーストモードにして電波は四本中二本しか立たない。
加えて、無制限に使用できるプランはなく、容量は月7GBのみ。
満足できるインターネット環境とは程遠い状態だ。
電話に出たオペレーターによれば今月に新たなルーターが発売され、
それはブーストモードで月15GBまで使用できるようだ。
しかし、まだ月々の料金など多くのことが明かされていない。
新たなルーターの説明を早く受けられることを期待しつつ、
今は電波二本しか立たない通信の安定しないポケットWi-Fiでなんとか凌ぐしかない。
「無線も有線もきていなくてインターネットが使えない地域というのは
実はまだかなりの数あるんですよ」
とオペレーターが淡々と話す。
確かに、特に高齢者の多い山奥は
インターネットを使わないで生活するのがまだまだ〈普通〉である。
地元の人々からこの地域は
「携帯電話が使えない地域」ということで通っているようだった。
そこに不便を感じる者は皆 山を降り、人里に移り住んでいる。
無線や電波と言ったものは身体にはあまり良くないと聞く。
だとしたら、この地は素晴らしい土地なのだろう。
だからと言って仕事を犠牲にすることはできない。
電話線は来ているようなので外部への連絡は後に電話を引くことで確保できそうだが、
ネット環境についてはしばらく模索する必要がありそうだ。
山の天辺付近のこの地は春になっても朝晩はまだまだ冷える。
剪定した木を薪にして暖炉を使う。
火は良い。芯まで温まる。
澄んだ空気で星がとても綺麗だ。
写真にうまく映らないのが本当に残念だ。